CUTTER & BUCK

COLUMN

That's Golf in America.

在米ゴルフジャーナリスト舩越園子によるアメリカンゴルフコラム

vol.4

誰の居場所も、そこにある。

90年代半ばごろ、ジム・フューリックの8の字を描くスイングは「変だ変だ」と陰口を叩かれ、ある米ゴルフ雑誌は「母親にしか愛されない変則スイング」と書いたほどだった。だが、彼は何を言われてもスイングを変えなかった。「僕にとっては、これが最高」と胸を張り、メジャー1勝を含む通算17勝を挙げた。45歳になった今でも世界のトップ10に数えられる唯一のミドルエイジ。そんなフューリックを悪く言う者はいない。

そして現代。ジョーダン・スピースのフォロースルーで左ヒジが曲がるスイングも変則だと言われ、「パワーが逃げるから飛距離が落ちる」とゴルフ解説者たちは口を揃える。とはいえ、パットの巧さはピカイチ。メジャー2勝を挙げ、22歳にして世界一に輝いた彼を揶揄する声は聞こえてこない。だが、スピース自身は飛ばないことを気にしており、番手の話になると、トーンダウンしてしまう。

あるとき、タイガー・ウッズがスピースに尋ねた。「あそこは5番アイアンで打ったんだろ?」。だが、スピースの実際の飛距離はウッズの予想を下回っていた。「いいえ、あそこは4番アイアン、、、、」。下向き加減にそう答えたスピースの小声を遮りながらウッズは大声でこう言った。「ジョーダン、キミはジム・フューリックを若く躍動的にしたみたいな素晴らしい選手だ」。教科書通りではなくても、堂々と胸を張れ。自分が持ち合わせているものが武器になり、そう信じ通すことが自信になるということを、ウッズはスピースに伝え、励ましていたのだろう。

世の中のスタンダードにとらわれず、自分らしさを大切にする。その姿勢が、かつての世界一から現在の世界一へ伝えられ、多くのゴルファーに広まってくれたらいいなと思う。

スピード社会、情報社会だからこそ、画一性より個性。アメリカのゴルフの世界では、それぞれの立ち位置がそれぞれの居場所。だからこそ、誰にとっても居心地がいい。

文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

早稲田大学政経学部卒業後、百貨店勤務、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。
学生時代に行っていたゴルフ経験を活かしてゴルフジャーナリストへ。1993年に渡米。米国に常駐し、米ツアーを中心に取材活動を行なう。自身にコーチをつけてゴルフを本格的に練習するなどプレイヤーとしての視点も持ち合わせ、ツアープロや関係者たちからの信頼も厚い。新聞や雑誌、ゴルフ専門誌等で執筆する他、ラジオや講演など多方面で活躍中。