CUTTER & BUCK

COLUMN

That's Golf in America.

在米ゴルフジャーナリスト舩越園子によるアメリカンゴルフコラム

vol.6

故郷への想い、「一切れのパン」

アメリカのゴルフ界で国民的人気を誇るフィル・ミケルソンは、自身が大学時代とプロ入り後の数年間を過ごしたアリゾナ州内で、すでに7つのゴルフ場を買収したという。

メジャー5勝を含む米ツアー通算42勝を挙げ、世界ゴルフ殿堂入りも果たしているミケルソンは、アリゾナ州のゴルファーたちがゴルフを堪能できる理想的な環境を創りたいと考え、気の置けない仲間たちと手を取り合って「第2の故郷」のためにゴルフ場開発を進めている。

故郷に対する熱い想いを行動で示している選手はミケルソンだけではない。マスターズ2勝、米ツアー通算9勝のバッバ・ワトソンは、自身が生まれ育ったフロリダ州のバグダッドという小さな町をこよなく愛し、その町を擁するペンサコーラ市郡の「市長になって恩返しをすることが僕の夢だ」と言う。

バグダッドには近代的なショップやレストランは何もなかったが、ワトソンはいつも心優しい人々に囲まれていた。自分を育ててくれた故郷を「僕が守りたい」。手始めにアイスクリームショップとミリタリーグッズや電気自動車関連のショップを市内にオープンさせた。今後はゴルフ場や大型居住施設の建設事業、教育関連事業にも取り組むという。

多額の賞金を稼いだリッチな大物選手だから、そんなふうに故郷への恩返しができるのかと言えば、必ずしもそうではない。ゴルフ場が1つもないカリフォルニア州の山の中で育ったブレンダン・スチールは、やっとのことで初優勝を挙げた途端、その賞金を上回る金額を投入して故郷にゴルフ場を造った。「もっと勝って、もっと稼いで、故郷の町で一人でも多くの人にゴルフに触れてほしい」

グリム童話で読んだ「一切れのパン」の話が思い出される。たくさん持っているから与えるのではなく、たとえ持っているものが少なくても、与えたいから与える。強いときだけではなく、勝利から遠ざかっているときも不調のときも、どんなときも恩義を忘れず、誰に対しても優しくあれ。ゴルファーである前に、一人の人間として立派であれ。

故郷に尽くす選手たちの真摯な姿は、アメリカンゴルフの懐の深さの象徴だ。

文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

早稲田大学政経学部卒業後、百貨店勤務、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。
学生時代に行っていたゴルフ経験を活かしてゴルフジャーナリストへ。1993年に渡米。米国に常駐し、米ツアーを中心に取材活動を行なう。自身にコーチをつけてゴルフを本格的に練習するなどプレイヤーとしての視点も持ち合わせ、ツアープロや関係者たちからの信頼も厚い。新聞や雑誌、ゴルフ専門誌等で執筆する他、ラジオや講演など多方面で活躍中。