CUTTER & BUCK

COLUMN

That's Golf in America.

在米ゴルフジャーナリスト舩越園子によるアメリカンゴルフコラム

vol.7

歴史を綴る1枚の絵

全英オープンが終わって数週間が経過したころ。偶然、目にした1枚の写真に、しばし見入った。

それは勝敗が決まった直後に撮られた写真で、真ん中には優勝したジョーダン・スピースと惜敗したマット・クーチャーの背中がある。スピースを笑顔で迎えているのは敗者クーチャーの妻。クーチャーを悔し涙で迎えているのは彼の2人の幼い息子たち。勝者も敗者も誰かに迎えられ、讃え合い、癒し合う柔らかな空気が伝わってきた。

試合が終わった直後の勝者と敗者の姿は残酷なほど対照的だったが、少しだけ時が流れ、あらためて眺めた1枚の写真には勝者と敗者がどちらも素敵な主人公となって収まっていた。主人公を囲む人々は温かい背景。そこには勝敗を超越した美しい絵が完成されていた。

ゴルフの歴史は、きっとこういう絵を1枚、また1枚と綴ることで積み上げられるものなのだろう。現実の中でスポットライトを浴びるのは勝者だけ。だが、歴史を綴る絵の中では勝者も敗者も主人公になり、2人を囲む人々も、みな絵の中に収まることができる。

今でも忘れられない絵がある。2007年のAT&Tクラシック最終日、72ホール目でバーディーを奪い、ザック・ジョンソンとのプレーオフに持ち込んだ今田竜二は、しかし、その1ホール目で左ラフからグリーンを狙って池に落とし、惜しくも初優勝を逃した。

グリーン奥で米メディアに囲まれた今田は「『刻んでいたら』というタラレバはない。狙ったという判断には100%満足。池に落としたことにだけ悔いが残る」と流暢な英語で毅然と言い切った。

だが、すべての取材を終え、ロッカールームに戻る途中、「悔しいね」と声をかけると、「ここまで来て勝てなかった。やっぱり悔しい」と今田は小さな声で呟くように答えた。地平線の向こう側へ沈みかけた太陽。視線を落としたままの今田と寄り添う妻。そして私。あのときの哀愁漂う1枚の絵が存在したからこそ、彼の翌年の勝利があったのだと思う。

そうやって歴史が綴られ、季節がめぐり、静かな冬が過ぎ去れば、ゴルフの世界には再び、芽吹きの春がやってくる。

歴史を綴る1枚の絵
文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

早稲田大学政経学部卒業後、百貨店勤務、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。
学生時代に行っていたゴルフ経験を活かしてゴルフジャーナリストへ。1993年に渡米。米国に常駐し、米ツアーを中心に取材活動を行なう。自身にコーチをつけてゴルフを本格的に練習するなどプレイヤーとしての視点も持ち合わせ、ツアープロや関係者たちからの信頼も厚い。新聞や雑誌、ゴルフ専門誌等で執筆する他、ラジオや講演など多方面で活躍中。